
1. はじめに
私は、今回韓国に2ヶ月滞在する機会を得て、街中に溢れる広告の量とその多様性に非常に驚きました。韓国の広告は、目にするもの全てが鮮やかで、インパクトのあるデザインが特徴的です。例えば、会社が位置している弘大には大きなスクリーンの広告があります。韓国の街中にある広告の中でも、K-POPの宣伝手法や企業のマーケティング戦略は、日本とは異なる独自のスタイルを持ち、効果的にターゲット層にアプローチしていると感じました。加えて、街中に溢れる広告メディアは、視覚的にも強烈な印象を与え、消費者の関心を引きつけるために精緻に設計されています。
また、韓国ではデジタルメディアの利用が非常に進んでおり、SNSやオンラインプラットフォームを活用した広告戦略が非常に盛んです。このような広告手法が、日本との違いを生み出しており、韓国の広報活動はターゲットの心をつかむために常に進化し続けています。この新聞では、韓国の広報・宣伝の特徴に焦点を当て、その強みや日本との違いについて掘り下げていきます。

2. 韓国の広報・宣伝の特徴
~K-POP業界の戦略的プロモーション~
『SNSとデジタルマーケティングの活用』
K-POPの成功において最も特徴的なのは、SNSの活用です。特にYouTube、TikTok、Instagram、Twitter(X)、Weverseなどのプラットフォームを駆使し、アーティストとファンの直接的な交流を行っています。YouTubeでは、MVやパフォーマンス動画、バックステージ映像などを頻繁に公開し、再生回数を稼ぐことで注目度を高め、TikTokではダンスチャレンジやショート動画を活用し、バイラルヒットを狙うことで、楽曲の認知度を向上させています。さらに、InstagramやXではアーティストの日常や舞台裏を発信し、ファンの関心を引き続けています。これにより、デビュー前のアーティストでもファンを獲得しやすくなります。K-POP事務所は、SNSアルゴリズムを研究し、最適な投稿タイミングやコンテンツ形式を模索しながら、常に発信を続けています。

『強固なファンダムの形成』
K-POP業界は、ファンを単なるリスナーではなく「ファンダム」として組織化することに成功しています。特に、ファン参加型のマーケティング戦略が多用されてます。たとえば、ファンが音楽番組の投票やストリーミング活動を行うことで、アーティストのランキングを上げる仕組みが確立されており、さらに、ファンクラブ制度(公式ファンクラブ、会員限定コンテンツ、特典付きイベントなど)を通じて、熱狂的な支持を維持しています。
『多国籍展開とローカライズ戦略』
K-POPは韓国国内市場だけでなく、海外市場をターゲットにした戦略的な展開を行っています。特に、アメリカ、日本、中国、東南アジア、ヨーロッパなど、多様な地域での活動を積極的に行っています。たとえば、アメリカ市場では英語楽曲のリリースや現地メディア出演を増やし、ビルボードチャートへのランクインを狙う。一方、日本市場では、日本語版の楽曲を制作し、現地でのファンクラブ活動やテレビ出演を通じて親しみやすさを高めています。さらに、グローバル市場向けに多国籍メンバーを採用することもK-POPの戦略の一つです。TWICEやNCT WISH、Stray Kidsなど、外国人メンバーを含むグループが増えており、それぞれの国での人気を高める効果を生んでいます。言語や文化の壁を超えるために、現地に合わせたマーケティング戦略を取り入れることで、より広範なファン層を獲得しています。

『コンテンツマーケティングとストーリーテリング』
K-POP業界では、音楽だけでなく、ストーリー性のあるコンテンツを提供することに力を入れています。特に、「世界観(コンセプト)」を持ったグループが増えており、アルバムごとにストーリーを展開することで、ファンの関心を引きつけています。たとえば、BTSは「LOVE YOURSELF」シリーズを通じて自己愛のメッセージを発信し、多くのファンの共感を得ました。aespaは「仮想世界」とのつながりをテーマにした独自のコンセプトを打ち出しています。aespaのようにずっと同じコンセプトを継続するグループもあれば、アルバムごとに異なるコンセプトで取り組むグループもいます。
また、YouTubeやWeverseを活用し、リアリティ番組やドキュメンタリー・休暇中のVLOGなどを制作することで、アーティストの個性や成長過程をファンに伝えています。
日常が見れるということで、親近感も与えることができます。これにより、単なる「音楽消費者」ではなく、「物語の一部」としてファンが関与することが可能となります。

『グッズ・アルバム販売戦略』
K-POPのプロモーションにおいて、アルバム販売とグッズ展開も重要な要素です。特に、フォトカード、特典付きアルバム、ランダム要素のある商品を販売することで、ファンの購買意欲を刺激しています。たとえば、アルバムにランダムで封入されるフォトカードは、コレクション性を高め、複数購入を促進する要因となっています。さらに、オンラインストアだけでなく、ポップアップストアや展示会を開催し、ファンの体験価値を高める取り組みも増えています。
加えて、NFTやメタバースを活用したデジタルグッズの販売も進められており、新たな収益源としての可能性を広げています。これらの戦略は、ファンの熱意を持続させるだけでなく、K-POP市場全体の拡大にも寄与しています。
『ファンが行う広告』
K-POP業界では、ファンがアーティストのために広告を出す文化が根付いています。特に、アーティストの誕生日や記念日には、街中や駅構内、大型ビジョンなどに広告を出し、祝福するのが一般的です。私も韓国で生活しながら何度もこの広告を目にしました。

(1)センイル広告(誕生日広告)
「センイル広告」とは、ファンがアーティストの誕生日を祝うために出す広告のことを指す。韓国では、ソウルの地下鉄駅構内やバス停、ショッピングモールのLEDビジョンなどに広告を出すのが定番となっている。さらに、ニューヨーク・タイムズスクエアや東京・渋谷のスクリーンなど、海外でもこうした広告を出すファンが増えてきた。
広告の制作費は、ファンがクラウドファンディングで資金を集めたり、ファンダムが共同で負担したりすることが多い。広告デザインは、プロのデザイナーに依頼することもあれば、ファンが自ら制作する場合もある。

(2)センイルカフェ(誕生日カフェイベント)
センイルカフェは、ファンが特定のカフェを貸し切り、アーティストの誕生日を祝うイベントを開催することを指す。イベント期間中、そのカフェではアーティストをテーマにした装飾が施され、オリジナルのカップホルダーやポストカードが配布されることもある。
このようなカフェイベントは、韓国だけでなく、日本や中国、東南アジア、ヨーロッパなど世界中で広がっており、ファン同士の交流の場にもなっている。
(3)ファン主導のプロモーション戦略
ファンが行う広告は、単なるお祝いにとどまらず、アーティストの認知度向上にも貢献している。特にデビュー前後のアーティストにとっては、ファンが行う広告やSNSでの拡散が知名度を上げる重要な役割を果たす。さらに、カムバック時には、ファンが自発的にSNSでハッシュタグをトレンド入りさせたり、プレイリストを作成してストリーミングを促進したりする活動も見られる。

3.SNSの活用とインフルエンサーマーケティング
韓国では、SNSが広告の中心的な役割を担っています。特に、Instagram、Twitter、YouTubeなどのプラットフォームを活用することで、情報の拡散が迅速かつ効果的に行われています。企業やアーティストは、SNSを通じてファンと直接的にコミュニケーションを取ることができ、よりパーソナルな接触を行うことでファンの忠誠心を高めています。
また、インフルエンサーマーケティングは韓国において非常に発展しており、SNS上で影響力を持つインフルエンサーたちが企業や商品の宣伝を行っています。これらのインフルエンサーは、日常生活の中で商品やサービスを自然に紹介することで、フォロワーに対して信頼性のある情報を提供し、製品やサービスへの関心を引き出します。
例えば、化粧品ブランドやファッションブランドは、インフルエンサーと協力して、製品のレビューや使用感をSNSでシェアすることで、その影響力を拡大しています。韓国では、こうしたインフルエンサーとのコラボレーションが、消費者の購入意欲を引き出す強力なツールとなっています。KPOPアイドルが化粧品ブランドやファッションブランドのアンバサダーをすることも多々あり、ブランドのショーやポップアップを行うことで、また購買意欲の上昇を促しています。商品に特典がつき、サイン会やグッズ特典など様々なマーケティング方法があります。

4.広告媒体の多様性と視覚的インパクト
韓国の広告は、デジタル化と視覚的インパクトを重要視しています。特に、都市部では大型のデジタルサイネージが頻繁に使用され、色鮮やかで目を引く広告が街の風景を彩ります。これらの広告は、視覚的な訴求力が強く、移動中の消費者に強い印象を与えることができます。さらに、デジタルサイネージの内容は、時間帯や場所に応じて変化するため、ターゲット層に最適化された広告が提供されます。
また、韓国では、地下鉄やバスなどの公共交通機関でも広告が展開されており、移動中の人々に向けた宣伝が行われています。これらの広告は、消費者にとって日常的に目にするものであり、視覚的に記憶に残るものとなります。特に、視覚的に鮮やかなビジュアルや動きのある映像を取り入れた広告は、通勤・通学中の人々の目を引き、効果的にメッセージを伝える手段として活用されています。ファンだけではなく、一般の人にも見てもらえるという部分ではとても効果のある広報方法だと思います。

ターゲットに合わせたプロモーション活動
韓国の企業やアーティストは、ターゲット層を明確に設定し、その層に向けて最適なプロモーションを行います。例えば、若年層に向けた広告では、SNSを活用したインタラクティブなプロモーションや、ユーモアを交えた映像を使用することが多く、若者の関心を引きやすい内容となっています。逆に、成人層に向けた広告では、生活に密着した価値提案を行い、実用性を重視したメッセージが強調されます。
「写真はバスの停留所と駅構内の広告」
5. 日本との違いと学べる点
韓国と日本の広報・宣伝手法にはいくつかの顕著な違いがあります。まず、韓国ではSNSを中心にしたプロモーション活動が非常に活発であり、インフルエンサーを活用したマーケティングが非常に盛んです。また、韓国の企業は消費者からのフィードバックやトレンドに対して迅速に対応することが多いです。これらはKPOP業界においても同じことが言えると思います。また、韓国では短期間で流行を取り入れたプロモーションが行われ、柔軟かつ迅速に戦略を変更することが一般的です。街中を歩いていても、この前見たお店が新しくなっていたりなど、短期間でお店が変わることをよく目にして驚きました。それほど流行に敏感であることを感じました。しかし、日本ではテレビや新聞などの伝統的なメディアが依然として強い影響力を持っています。SNSでのリアルタイムなコミュニケーションや流行のキャッチが遅れているのではないかと思います。日本人の特性の慎重という部分も関係しているのはないかなと考えました。これからは、日本の企業や団体も、韓国のこうした動きに注目し、SNSを中心としたデジタル戦略を強化する必要性がある思います。日本でもインフルエンサーの活動が増えましたが、コラボレーションをしたり、ターゲット層に合わせたパーソナライズされた広告戦略を取り入れることは、今後の広報活動において重要な要素となると考えられます。
6. まとめ
韓国の広報・宣伝は、SNSの活用、インフルエンサーとの協力、視覚的にインパクトのある広告展開、ターゲット層に合わせた柔軟なプロモーション戦略といった特徴があり、これらの手法が消費者との強い結びつきを生んでいます。特にK-POP業界では、デジタルマーケティングを駆使し、世界中のファンと直接つながることで、ブランドの価値を高め、忠誠心の高いファンダムを形成することに成功しています。また、企業広告においても、SNSを活用したマーケティングや、ターゲット層に合わせたプロモーションが非常に発達しており、流行に素早く適応する能力が高いと感じました。
日本と比較すると、韓国ではデジタルメディアを最大限に活用し、情報をリアルタイムで発信することが重視されています。対して日本は、テレビや新聞といった従来型のメディアが依然として大きな影響力を持ち、SNSを活用したマーケティングの普及が比較的遅れている印象を受けます。韓国では、消費者のニーズやトレンドを迅速にキャッチし、それに合わせた広告を展開する柔軟性があり、企業やアーティストが積極的にマーケティング戦略をアップデートし続けています。一方、日本では慎重な計画を重視する傾向があり、流行への対応に時間がかかる場合が多いです。しかし、近年は日本でもインフルエンサーを活用したマーケティングや、SNSでのブランド戦略が注目され始めており、徐々にデジタル広報への移行が進んでいるように思います。
また、韓国では広告のビジュアルデザインにも強いこだわりがあり、街中のデジタルサイネージや公共交通機関の広告など、目を引く仕掛けが多く取り入れられています。特に、広告の内容を頻繁に更新し、時代やトレンドに即したメッセージを発信することで、消費者の関心を維持する工夫が見られました。K-POPのプロモーションにおいても、ファンが自主的に広告を出したり、イベントを企画したりする文化が根付いており、企業と消費者が一体となって広報活動を行うという点が非常にユニークです。
今後、日本の企業やエンターテイメント業界も、韓国のようなデジタルマーケティングの手法を積極的に取り入れ、ターゲット層とのインタラクションを強化することが求められるでしょう。特に、SNSを活用したリアルタイムな情報発信、インフルエンサーとの協力、ターゲットに合わせた柔軟なマーケティング戦略は、今後の日本市場においても重要な要素となるはずです。さらに、街中の広告やビジュアル面でも、よりインパクトのあるデザインやデジタル化を進めることで、消費者の記憶に残る広報活動を展開できる可能性があります。韓国の広報戦略を学ぶことで、日本の広告やプロモーションにも新たな可能性を見出すことができると考えました。これからの時代、より効果的な広報活動を展開するためには、韓国のデジタルマーケティングの手法を参考にし、SNSやインフルエンサーを活用した戦略を強化していくことが不可欠です。流行の変化が激しい現代において、柔軟な対応力を持つことが、日本の広報活動の発展につながるのではないでしょうか。韓国の広報手法から学びながら、日本独自の強みを活かした新しいマーケティング手法を模索し、効果的な広報戦略を確立していくことが重要だと感じました。
▶記者:山路 かな