韓国芸能文化(大衆文化)の発展について

 

韓国政府は、約25年前の金大中大統領の時代から文化産業を重要な経済分野として位置づけ、積極的に支援してきた。金大中大統領は、1998年2月の大統領就任演説で「文化は、文化産業を起こし膨大な高付加価値を創出する21世紀の重要な基幹産業」と宣言した。特に、1990年代末から文化産業のグローバル化を進め、無形の文化を産業化する政策を推進した。文化政策に関して統制の政策から振興の政策への転換を強調する一方、創作活動に対する諸規制の撤廃と緩和を始めた。文化産業振興基本法改正(2001年)、オンラインデジタルコンテンツ産業振興法制定(2003年)など、経原原則に基づく文化産業政策の振興を軸とした予算の量的投入により成長の変化をもたらした。

その後、政権が変わっても韓国政府は「支援はするが、干渉はしない」という一貫した文化政策が取られてきた。芸能活動に対する規制緩和や、予算投入によって音楽や映画、ドラマの生産を支援した。このような政策が、韓国の芸能産業の成長を加速させたのである。

 

 2.大衆文化芸術産業発展法の制定

「大衆文化芸術産業発展法」は、韓国の大衆文化芸術産業を支援し、その発展を促進するための法的枠組みを提供することを目的としている。1990年代後半以降、日本を含む海外において、ドラマ、映画、K-POP 等、韓国の文化コンテンツに対する人気が高まり、 「韓流」ブームを巻き起こした。その一方で、「韓流」を支える歌手、俳優等の芸能人が、劣悪な労働環境に置かれていることが問題となっている。芸能事務所が、所属する芸能人に対し、長期専属契約(通称「奴隷契約」)、不公正な収益配分、不透明な金銭の負担、過密スケジュール等を強要する事例が発生しており、未成年の芸能人に対する学習権侵害も指摘されてきた。これらの問題に対処するため、大衆文化芸術産業発展法が2014年1月28日に公布された(公布後6か月経過後施行)。

 

3.K-POPがグローバル展開に成功した4つの要素

特にK-POPは、世界中で大きな影響力を持つようになった。1990年代後半から2000年代初めにかけて、韓国の音楽業界はグローバルな市場をターゲットにしたプロデュース方法や音楽のスタイルを取り入れるようになり、アジアだけでなく欧米市場にも進出を果たす。

黄仙惠(2022)によると、K-POPが成功した4つの要素とは、1.ルックス、2.ステージパフォーマンス、3.ミュージックビデオ、4.グローバルトレンドを反映した音楽としている。音楽関係者によると、K-POPは言語の壁を乗り越えて視聴感覚に訴えかけるダンスと、アーティストや歌の世界観を伝えるミュージックビデオが、世界のファンに共感を呼び起こしたという。そのため、グローバルトレンドを取り込みながら独自の楽曲を開発し、国際的感性をも共有している。

  

4.芸能事務所の役割

芸能事務所とは、芸能産業においてアーティスト(アイドルグールプや俳優)の育成やマネジメント、プロモーションなどを行う専門的な組織である。これらの事務所は、アーティストをデビューさせるために多くのリソースや時間を投資する。韓国の大手エンターテイメント企業(HYBEエンターテイメント、YGエンターテイメント、SMエンターテイメント、JYPエンターテイメントなど)は、アーティストのマネジメント、プロモーション、メディアへの露出戦略を積極的に行い、企業の戦略的な支援によって芸能産業の発展に寄与してきた。

 

芸能事務所の主な活動は以下の通りである。

○タレントの発掘と育成

芸能事務所は、オーディションなどを通じて新たな才能を発掘し、練習生と言われる育成期間を経てデビューさせる。韓国芸能事務所は、その規模や数において非常に多様である。韓国の芸能事務所は、アーティストの育成に力を入れており、練習生としての期間中、アーティストは歌唱、ダンス、演技、トレーニングを受け、才能を磨く。特にアイドルグループの場合、デビュー前に厳しい練習とトレーニングが必要となる。

 

○マネジメントとプロモーション

事務所はアーティストのスケジュール調整、メディア出演、アルバムの制作、コンサートの企画など、全ての活動をマネジメントする。さらに、プロモーション活動、マーケティング戦略なども重要で、アーティストを国内外で広く認知させるために、テレビ番組、ラジオ番組、SNSを駆使して積極的に宣伝している。アーティストの個々の「ブランド」を築き上げ、グローバル市場への展開をサポートする。特に近年では、韓国のエンタメ業界が国際的に注目されているため、K-POPアイドルグループは海外市場への進出も重視される。

 

○法的サポートと契約管理

芸能事務所は、アーティストとの契約を管理し、法的なサポートを提供する。これはアーティストの権利を守り、ビジネス面でのトラブルを未然に防ぐために重要である。

 韓国芸能事務所は、地域経済にも大きな影響を与えている。アーティストの成功により、観光産業や関連産業が発展し、韓国の経済に大いに貢献している。また、韓国芸能事務所の育成システムは、音楽やエンターテインメントの分野での人材育成と関連産業の発展にもつながっている。例えば、音楽プロデュースや映像制作、ファッション、美容など、韓国芸能事務所の成功によって多くの関連産業が育ち、雇用の創出や経済的な効果をもたらしている。韓国芸能事務所は、独自のトレーニングシステムやマネジメント手法、クリエイティブなアイデアを通じて、国内外で高い評価を得ている。その結果、韓国のアーティストやアイドルグループは世界的な人気を獲得し、グローバルな影響力を持つ存在となった。彼らの活動は、K-POPや韓流ドラマなどの形で韓国の文化を今後も世界に広めていくことが期待される。

 

5.芸能事務所の問題点

韓国芸能事務所は、アーティストの成功によって利益を上げる一方で、アーティストとの契約や労働条件に関して批判されることがある。また、アーティストのプライバシーやメンタルヘルスの問題も指摘され、一部の事務所では、アーティストのイメージ作りや個性の制約が問題視されている。

  

社員の働き方については、

・仕事量が非常に多い。

・夜の時間、週末、休日がきちんと保証されていない。

・年俸が非常に低い。

・きちんとした体系ができていない。

・垂直的な意思決定構造を持っている。

・アーティスト最優先に回るので、社員の待遇がよくない。

といった問題点が挙げられる。

  

○韓国大手芸能事務所の特徴

잡플래닛(ジョブプラネット)より、社員の匿名レビューを引用。  

 

6.韓国の芸術高校の目的

韓国の芸術高校は、音楽、舞踊、演技、視覚芸術など、芸術分野で専門的な教育を受けるための学校である。これらの学校は、才能を持つ学生に専門的な訓練を提供し、将来のプロフェッショナルとしての道を開くために重要な役割を果たす。

 

専門的な技術教育と訓練

芸術高校では、学生が音楽やダンス、演技などの分野で高度な技術を学ぶ。例えば、音楽高校では楽器の演奏や歌唱力を磨くことができ、舞踊学校では高度なダンス技術を学ぶことができる。

 

早期の才能発見と育成

韓国の芸術高校は、才能を持つ学生に対して早い段階で特別な教育を提供する。これにより、学生はその才能を最大限に活かし、プロとしてのキャリアをスタートさせることができる。多くのK-POPアイドルも、芸術高校での学びを経て、芸能事務所に入所し、プロとしてデビューしている。

 

芸術分野の多様なキャリア支援

芸術高校は、音楽、舞踊、演技などの分野にとどまらず、視覚芸術や映画、映像制作など、さまざまな分野で活躍できる人材を育成している。学生は自分の得意分野を深め、最終的にはプロフェッショナルなキャリアを築くための基盤を作る。

 

高校生としての教育とのバランス

芸術高校は、一般的な学問の教育(国語、数学、社会など)と芸術の専門教育を並行して行うため、学生は学問的な基礎も学びながら、芸術分野でのスキルを磨く。これにより、学生は将来的に芸術業界だけでなく、その他の分野にも進出することができる。

 

芸術業界との連携

芸術高校は、業界との連携を強化し、学生にインターンシップや実習の機会を提供することもある。これにより、学生は早い段階で業界の実情に触れ、現場での経験を積むことができる。

 

 

①ソウル公演芸術高等学校

設立年月:1966年3月6日

所在地:韓国ソウル特別市九老区梧里路

韓国で初めて設立された公演芸術分野の特殊目的高等学校で、MBCアカデミーなどの公演芸術関連企業と連携している。韓国の高校で唯一、ステージセットについて学ぶ舞台美術科を開設している。キリスト教主義の私立学校で、クリスチャン精神のもと「キリストを倣う愛の奉仕教育」を第一の教育方針としている。教育とビジネスは切り離すべきであるという理念のもと、生徒に対する仕事の斡旋や芸能関係者を招いた学内オーディションなどは一切行われていない。地域社会での公演主催、ロシア、タイ、フィリピンなど学校単位の海外公演を行っている。 

 

 ②韓林演芸芸術高等学校

設立年月日:1960年4月3日

所在地:韓国ソウル特別市松坡区忠愍路172(長旨洞)

  

参考文献

・黄仙惠:なぜ韓流文化は世界を席巻したのか?

https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/features/2022/05-6_2.html,2025,2,25閲覧。

・【韓国】 大衆文化芸術産業発展法の制定

https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8423372_po_02580208.pdf?contentNo=1,2025,2,25閲覧。

・韓国芸能事務所の実際

https://creatrip.com/ja/blog/10654,2025,2,25閲覧

記者:龍谷大学経営学部経営学科 森本茂暖