
古くから宗教は人々の生活に様々な影響を与えてきた。社会や文化、政治などと密接に結びつき、人々の行動や思考と強く関連していた。宗教にはいくつか役割があるが、その1つとして人々のつながりを強めるという面がある。例えば、キリスト教では、個人差はあるが、プロテスタントの場合毎週日曜日に教会に行き、礼拝をおこなう。そのため、教会が人々を結び付ける場として作用している。さらに、人々は精神的な拠り所を求め、教会に足を運ぶこともあった。宗教は人々の支えとしての役割を持っているのである。
また、日本では、神道や仏教のお祭りが地域の結束を高める行事として現在も各地で行われている。地域の伝統や文化を継承する役割を持つだけでなく、観光客などを取り込み、地域の活性化を促すという側面もある。
以上のように、宗教は私たちの生活において重要な役割を果たしているが、その一方で、現代において、宗教の広がりには悪質な宗教勧誘が伴うことがしばしばある。信教の自由は憲法20条で保障されており、どのような宗教を信じるかは個人の自由として認められている。しかし、一部の新興宗教団体は、宗教であることを隠して勧誘することで、人々の警戒心を避け、善意に漬け込み、宗教の拡大を図ろうとする。
実際に、私は韓国で宗教勧誘のようなものを経験した。初めは、韓国語で話しかけられ、外国人だとわかると英語と日本語を交えた会話を始めた。初めは日韓交流を行っていると言って「韓服体験ができる」などと言われ、次第に「介護事業を行っているから寄付をしてほしい」など金銭的な要求をされるようになった。最初は、日韓交流を促進する文化的な団体だと思ったので、とてもいい印象があったが、次第に断っても話を続けてくる様子から違和感を持った。そこで、このような行為についてインターネットで調べると、韓国の宗教勧誘としてよく行われている手口だと知った。また、「韓国人だと思った。」と会話では言われたが、日本人だとわかって勧誘するケースが多いということだった。私は日本で一度も宗教勧誘やそれに関連する勧誘を経験したことがなかったので、韓国に来て2週間で初めて街中で宗教勧誘を受けたことにとても衝撃を受けた。
この経験を通して、日本と韓国では宗教観に違いはあるかについて関心を持つようになった。したがって、この新聞では日本と韓国の宗教の違いと、それによる慣習や価値観の違いについて考察する。また、日韓の新興宗教団体についての問題点や社会的な影響などについても分析する。
日本と韓国の宗教:日本人の宗教
日本人は、信仰している宗教はあるかと聞かれても、無宗教だと答える人が多いと考えられる。実際に、NHKの国際比較調査グループISSPが2018年に行った調査によると、「ふだん信仰している宗教がありますか」という問いに、「仏教」と答えた人が31%、「神道」と答えた人が3%、「キリスト教」と答えた人が1%であった。したがって、合計36%の人が宗教を信仰しているということになる。一方で、62%の人は「進行している宗教はない」と回答した。
このように、日本人は宗教を信仰している意識を持つ人は少ない割合を示している。しかし、仏壇を拝むことがあると答えた人は訳70%にのぼった。また、多数の日本人が新年には神社に初詣に行き、お盆にはお寺にお墓参りを行うのではないだろうか。他にも、日本の家庭でよく行われている七五三や節分などの行事は、神道・仏教と結びつく行事である。また、クリスマスはキリストの生誕を祝う日とされているが、日本では、キリスト教の信仰に関係なく、クリスマスには家族や友達、恋人と祝う文化がある。したがって、日本人は、宗教を「信仰」としての意識ではなく、「文化」や「慣習」として日常生活に根付いているといえる。


さらに、精神的な面でいうと、古代の日本では、「八百万の神」と言い、あらゆる物には神が宿るとされ、特に、山や海、大きな木や岩などの自然物に神が宿っていると考えられていた。この考えは、日本人の価値観にも影響を与えており、自然を大切にする心は、自然との調和、共存を重要視し、時の流れによる変化を美しいとみなす美意識に繋がっていると考える。
また、これは現代においても祭りという形で継承されている。お祭りの本来の目的は神様に感謝をすることや、祖先を祀ることであり、今でも様々な地域で活発に続いている。
韓国人の宗教
韓国リサーチの調査によると、2024の時点で韓国では、「プロテスタント」を信じる人は20パーセント、「仏教」を信じる人は17パーセント、「カトリック」を信じる人はパーセント、その他の宗教が2パーセントであり、合計で49パーセントが宗教を持っていると回答した。一方で、51パーセントは無宗教であると回答した。したがって、韓国では約三割の人がキリスト教徒であることがわかる。この現状は街中にも表れており、人口比に対する教会の数は、韓国が世界で一番多い。実際に韓国の街を歩いていると、教会が沢山あるのを感じる。


また、韓国にはソウルの漢江公園が人気な汝矣島には、「汝矣島純福音教会」という教会がある。この協会は、1993年には信徒数が70万人を超え、世界最大の教会としてギネスブックに登録された。


また、著名人でもキリスト教徒であることを公言することは一般的である。例えば、日本で韓流ブームをもたらしたドラマ「冬のソナタ」の主演俳優のぺ・ヨンジュンである。また、BOAや、aespaのカリナなどもキリスト教徒であることを公言し、それぞれ、「キアラ」「カタリナ」という洗礼名も公表している。さらに歴代の大統領もキリスト教徒が多く存在し、韓国の政治と密接な関係にあった。以上のことから、韓国では宗教に対してオープンで、日本よりも生活の身近に存在していることがわかる。また、それは文化、慣習としてというよりも信仰する宗教として社会に根付いていると考えられる。
また、朝鮮時代に約500年間にわたり国教とされた儒教は、韓国の社会や価値観に影響を及ぼしており、現代においてもその理念が根付いている。儒教は、年長者や社会的地位の高い人を敬うことが大切とされている宗教である。特に、韓国では上下関係が重要視されることで知られている。そのため、韓国では初対面の人に年齢を聞き、一歳でも歳が離れていたら、友達ではなく先輩・後輩として接する文化がある。また、目上の人に対する礼儀が重視されていて、酒を飲むときは顔と体を横向きにして、飲み口を隠さなければならない、若者は地下鉄の優先席は空いていても座ることを避けなければならない。など、年上の人を敬うマナーが数多く存在している。
また、受験戦争が激しいことも儒教の学問を重要視する考えから影響を受けている。韓国は、日本よりも社会的に学歴を重視する風潮が強く根付いていて、名門大学に入学し大企業に入ることが理想とされる。そのため、日本のような部活動は活発ではなく、多くの子どもが幼い頃から塾に通い、厳しい勉強に励んでいる。このように、韓国において儒教の考えがマナー、慣習、価値観などと深く関係している。

新興宗教
日本
日本では、1995年の地下鉄サリン事件や、2022年の安倍元内閣総理大臣が暗殺された事件など、記憶に残る凶悪事件が新興宗教と結びついていることで、新興宗教は危険な存在で、怖いといった印象を持つ人が多くなっている。実際に、2023年に宗教法人築地本願寺が行った調査によると、宗教への不信感が高まった人は、全体の4割にのぼり、マインドコントロールや洗脳を行っている団体としての意識が高まっている。さらに、一部の新興宗教では、高額な寄付や霊感商法の強要により、信者やその家族が経済的に困窮してしまうということがある。それにより、信者が孤立し、抜けられない状況に追い込むというケースも存在しているのが現状である。
また、日本では、伝統宗教団体による宗教勧誘が話題となることは少なく、その多くはカルト団体である。宗教勧誘は、大学のキャンパス内で行われていることもあるという。宗教団体であるということを隠し、サークル活動、ボランティア活動などを装って勧誘するケースが多い。さらに、履修相談、就活セミナーなどといい、学生のニーズに合わせて興味を持たせることで、抵抗感をなくし、最初は無害な印象を与えることで次第に抜け出せなくする。さらに、最近の宗教勧誘は、SNSでも広がっている。正体を隠してコンタクトを取り、時間をかけて徐々に引き込んでいく。これは、孤独を感じている人や依存しやすい人の心理を利用し、弱みに付け込むという手口である。
韓国
安倍晋三元首相銃撃事件を契機に問題化した「旧統一教会」の発祥地は韓国であり、韓国の信者数は日本の半分以下で、海外の信者数も含めると、世界で約10万人規模だと想定される。教会の指導者が結婚相手を決める合同結婚式を行っており、世界中から沢山の信者が集まる。2023年に行われた合同結婚式では、約150か国の計1万6000人が参加し、日本人は993人が参加した。
また、1984年に設立された「新天地イエス教会」という団体は、コロナ禍に教会の礼拝を行った後、集団感染が起こったことで大きく話題になった。さらに、この団体は正体を隠して布教活動を行うことで問題となったこともある。
韓国の場合、日本と同様の手口に加え、日本人をターゲットにした宗教勧誘が広がっている。これも、宗教勧誘であることは隠し、街中で、「チマチョゴリ体験」ができるなどと声をかけ日本人に興味を持たせることで、気づいたら宗教の儀式に参加させられていたというケースもある。このように、あたかも魅力的なサービスを行っていると見せかけて、宗教勧誘であることを微塵も感じさせない巧妙な手口を使っている。これには、日本人の断りにくい、はっきりNOを言えないという性格を利用している面もあると考えられる。
〈その他の教会〉
これらの写真は、歩いているときにたまたま発見した教会の写真です。韓国では、少し歩くだけで、沢山の教会に出会います。(新興宗教団体ではない)

まとめ
日本と韓国では、宗教の捉え方が異なっていることが分かった。日本では、神道と仏教が共存し、どちらの考え方も、冠婚葬祭や年中行事といった日本人の文化や慣習として捉えられている。宗教行事だという認識はほぼなく、当たり前のように行う伝統としての意識が強いと考えられる。つまり、日本は宗教的な行動が普段の生活に自然と溶け込んでいる。また、宗教に関心を持つ人が少なく、偏見を持ってしまうことも少なくない。
対して、韓国は、国民の半分はキリスト教、または仏教を信仰しており、単一民族でありながら多宗教的である。そのため、信仰を持つことに対し肯定的に捉える人が多く、宗教を日常生活の一部として受け入れる傾向がある。また、韓国で古くに信仰されていた儒教は、現代において人々の、家族観や道徳観、礼儀文化などに影響を与えている。儒教は、日本における宗教の捉え方のように、韓国において、当たり前の文化や価値観として根付いている。
さらに、新興宗教に関しては、両国ともに、悪質な宗教勧誘が社会的にたびたび問題となっている。正体を隠して勧誘活動を行うことで、警戒心を緩め、興味を持たせ、逃げ出せない状況をつくろうとすることがある。このような場合、初めから、宗教勧誘か否かを見抜くことは難しい。そのため、普段から知らない人には個人情報を話さない、うまい言葉には乗らないことを意識する必要がある。また、韓国では道端で急に話しかけられた際は、宗教勧誘の可能性があることを認識してほしい。初めは道を尋ねたり、アンケートの回答を求めてきたりなど、宗教的な要素を見せてこないので、十分に注意することが必要だ。はっきりと断り、冷静に強い態度で対応し、自分の身の安全を最優先に考えることが重要である。韓国では日本人がターゲットにされやすいということを認識してほしい。
また、このような悪質な宗教勧誘や、霊感商法によって、人々の宗教に対するイメージが悪くなってしまっている現状もある。そのため、宗教は正しい信仰の一形態であり、必ずしも害を及ぼすわけではないことを留意する必要がある。実際に、多くの場合は人々の心のよりどころとしての役割を担っている。このころを念頭に置いたうえで、悪質な行為について考えるきっかけとなったら良いと考える。
参考文献
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読売新聞オンライン(2023)「旧統一教会が韓国で合同結婚式、日本人993人参加…双方の合意の上で婚約してる」https://www.yomiuri.co.jp/national/20230507-OYT1T50093/(最終閲覧2025.03.22)
記者:埼玉大学 関根綾香