韓国のカフェ文化と日本での適用

 

はじめに

韓国にカフェが多いことを知っている人は多いが、実際に韓国で生活しながら街を歩いてみると、至るところにカフェが存在し、その数の多さに驚かされた。特にソウルの繫華街では数十メートルごとにカフェが立ち並び、有名なチェーン店から個人経営のカフェまで、多様な店舗がひしめき合っている。

 

私は日本でもカフェを訪れることが多く、一人でカフェチェーン店を利用して勉強をしたり、友人と交流を深めるためにお洒落なカフェに足を運んだりすることがある。しかし、日本ではカフェの需要に対して店舗数が不足していると感じすことが少なくない。特にチェーン店では常に席が埋まっていることが多く、席が空くのを待たなければならないことも珍しくない。このような状況を考えると、日本におけるカフェ文化は、韓国と比べてまだ発展の余地があるのではないかと感じる。

 

一方、韓国ではリーズナブルな価格でコーヒーを提供するカフェが多く存在する。世界的なチェーン店であるSTARBUCKSや貢茶(Gong Cha)は日本よりも価格が高く感じることもある。しかし、韓国発のMEGA MGC COFFEEFIESTA7 COFFEEといった低価格チェーン店は手頃な価格でありながらサイズも大きく、さらに味も良いため、韓国でのインターン生活中、頻繫にカフェのドリンクを購入するようになった。また、街を歩く人々の多くがカフェで購入したドリンクを片手に持ち歩いている姿を目にし、韓国におけるカフェ文化の浸透度を実感した。

 

この経験を通じて、「なぜ韓国ではこれほどまでにカフェ文化が発展しているのか」「MEGA MGC COFFEEのような低価格カフェはどのようなビジネスモデルで運営されているのか」「日本でも同様のカフェを展開することは可能なのか」といった疑問が生じた。本稿では、これらの疑問を解明するために、韓国のカフェ文化の発展背景とビジネスモデルを分析し、それを日本市場に適用する可能性について考察する。

 

本論

 

1.    韓国でカフェ文化が発展した背景

 

韓国関税庁の統計によると、韓国のコーヒー市場は2017年に約1173975000万ウォン(11700億円に達し、初めて10兆ウォンを突破した。)これを消費量で考えると約265億杯と推計され、国民1人当たりの年間消費量は512杯にのぼる[1]。これは、韓国が世界でもトップクラスのコーヒー消費国であることを示している。

 韓国でカフェ文化が発展した背景には、いくつかの要因がある第一に、カフェが単なる飲食の場ではなく、勉強や仕事、社交の場といったライフスタイルの一部としての役割を果たしている点が挙げられる。特に大学生や会社員の間では、自宅や職場以外の場所で作業をする文化が根付いており、カフェがその受け皿となっている。そのため、多くのカフェではWi-Fiや電源が無料で提供されており、利用者が快適に作業できる環境が整っている。試験シーズンになると、カフェが自習スペースのようになり、多くの学生がノートパソコンや教科書を広げて勉強している姿が見られる。

また、韓国ではカフェのスタイルが多様化しており、利用者の目的に応じて「長時間滞在型」と「回転率重視型」のカフェが存在する。


[1] YONHAP NEWS AGENCY「コーヒーを年間512杯飲む韓国人 10年で3倍に市場拡大」https://jp.yna.co.kr/view/AJP20180218001100882(参照日:2025317日)

 

スタディーカフェやブックカフェなどでは、静かな環境が提供され、利用者が集中して作業できるようになっている。一方で、MEGA MGC COFFEEFIESTA7 COFFEEのような低価格カフェはテイクアウト需要を中心に据え、回転率を重視したビジネスモデルを採用している。

(出典:Hatena Blog「梨大生に人気のスタディーカフェ、梨大茶房」、MEGA MGC COFFEE公式ホームページより)

 

 

さらにSNS文化の発展により、カフェは「インスタ映え」するスポットとしての側面を強めている。特に若年層の間では、フォトジェニックなデザインやユニークなコンセプトのカフェが人気を集め、新たなカフェが次々とオープンしている。このようなトレンドが、韓国のカフェ市場の成長を後押ししている。

実際にこのようなカフェ文化の定着や市場の成長は、店舗数の増加から読み取れる。特に日本と韓国でのスターバックスの店舗数推移を比較すると、これが顕著に現れている。

(出典:江南タイムズ「驚異の出店ペース!韓国スタバ、25年で2000店舗達成、江南区テヘラン路だけで100店舗が密集する異常事態に」より筆者作成)

 

グラフを見ると、2020年の時点では韓国よりも日本の方が100店舗以上多かったのにも関わらず、2023年にはほぼ差がなくなり、2024年には日本と韓国の立ち位置が逆転していることが読み取れる。日本と韓国の人口差を考慮すると、韓国のカフェ市場の大きさや、如何に店舗数が多いかが分かる。

 

1.    韓国の低価格カフェチェーンのビジネスモデル

 

韓国のカフェ市場の中でも、特に低価格カフェチェーンは大きな成功を収めており、そのビジネスモデルにはいくつかの特徴がある。

 

チェーン名

価格(アメリカーノ)

特徴

MEGA MGC COFFEE

2,000ウォン

大容量ドリンク(約700ml)を低価格で提供

FIESTA7 COFFEE

2,000ウォン

シンプルなメニュー構成でコスト削減

MANNMOS COFFEE

1,500ウォン

1Lサイズの超大容量ドリンクが人気

COMPOSE COFFEE

1,500ウォン

フランチャイズ展開により全国に拡大

EDIYA COFFEE

2,000ウォン

韓国最大規模のカフェチェーン

(出典:各カフェチェーンの公式ホームページを基に筆者作成)

 

 韓国の代表的なこれらのカフェチェーンは、一般的なカフェと比べて価格が安いのにも関わらず、大容量のドリンクを提供することで人気を集めている。こうしたビジネスモデルの成功の背景には、いくつかの要因がある。

 

 まず、テイクアウトを中心とした運営が挙げられる。低価格のカフェの多くは、店内での長時間滞在を前提とせず、持ち帰り需要に特化している。これにより店内の座席数を減らし、スペースの効率的な活用が可能となる。座席を少なくすることで、店舗の賃料や維持費を抑えながら、多くの顧客に対応することができる。さらに、店内での滞在時間が短縮されることで、回転率が向上し、より多くの顧客をさばくことが可能となる。次に、原材料の大量仕入れによるコスト削減がある。韓国の低価格カフェチェーンは、コーヒー豆やミルクなどの主要原材料を大量に仕入れることで、仕入れコストを抑えている。また、メニューの選択肢を厳選し、仕入れの効率を最大化することで、コストパフォーマンスの高い商品を提供している。この戦略は、低価格を維持しながらも品質を確保するための重要なポイントとなっている。

さらに、セルフサービスの導入も大きな要因の一つである。韓国の低価格カフェでは無人注文機(キオスク)を導入し、顧客が自ら注文を行うシステムを採用している。

 

出典:SAM MOBILE「Samsung Kiosk powered by Windows OS launched in South Korea」、Search KOREA「『ドラッグストアではない』韓国で爆発的に増加している『キオスクとは』?」)

これによりオーダーのミスを減らし、注文処理のスピードを向上させることができる。実際に筆者である私も商品が出てくるスピードの速さに驚愕した。また、店員の数を最小限に抑えることで、人件費の削減にもつながっている。

 

 このように、韓国の低価格カフェは低コストで高い利便性を提供することで、現代の消費者ニーズに適応しながら成長を続けている。

 

1.    日本市場への適用可能性

 

では、韓国の低価格カフェチェーンの成功を日本市場に応用することは可能なのか。この問いに答えるためには、日本のカフェ市場の特性と、韓国の低価格カフェが持つ特徴を照らし合わせる必要がある。

 

先に結論から述べると、韓国の低価格カフェチェーンが日本に進出する可能性はあるが、同じ価格設定で提供するのは難しい。

(出典:JETRO「投資コスト比較 ソウル」、三菱地所リアルエステートサービス「OFFICE MARKET REVIEW 2024(2024年 東京主要5区・7区の空室率・賃貸料推移総括)」より筆者作成)

まず日本では都市部を中心に賃料が高く、テナント費用が韓国に比べて大きな負担となる。例えば、上のグラフを見てわかる通り、東京の中心部の店舗賃料はソウルよりも圧倒的に高額であり、同じ価格帯での運営は難しいと考えられる。

 

さらに日本では最低賃金も韓国より高く、2024年時点で東京都の最低賃金は1,113[1]、韓国は9,860ウォン [2](約1,006円)と、日本の方が人件費の負担が大きい。ゆえに店舗当たりの従業員を減らしても店舗数を増やすと人件費も賃料も増えてしまうため、韓国でのビジネスモデルをそのまま適用することは困難であると考えられる。

 

また、日本のカフェが韓国のように低価格カフェチェーンのような「回転率重視型」のカフェと勉強専用などの「長時間滞在型」カフェに分かれていないことも要因のうちの一つである。限られた店舗数と空間の中に長時間滞在する人が混在するため、韓国の低価格カフェチェーンのように回転率を重視するビジネスモデルは上手くいかない可能性が大いにある。

 

しかし、近年の日本では以前よりもテイクアウト需要が増加傾向にあったり、モバイルオーダーの導入も進んだりしている。韓国の低価格カフェチェーンの成功要因をうまく取り入れ、日本の市場に適した形で展開すれば、成功する可能性も十分にあるだろう。

 

また筆者としては、日本ではこのようなカフェを大学やオフィスビルに特化した「低価格テイクアウトカフェ」としてビジネスを展開し、反響が良かったりそれ以外の場所での需要も見込めたりしそうになったら、現在の韓国のように本格的に全国展開をすることができるのではないかと考えている。

 

[1] 厚生労働省 東京労働局「東京都最低賃金は10月1日から時間額1,113円になります」https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/news_topics/houdou/20220901chinginka_0002_00003.htm(参照日:2025年3月24日)

[2] YONHAP NEWS AGENCY「韓国の24年最低賃金 2.5%増の1080円で確定(2023年時のレート)」https://jp.yna.co.kr/view/AJP20230804001500882#(参照日:2025年3月24日)

 

最後に

 

韓国ではカフェが日常生活と密接に関わっており、単なる飲食の場飲食の場にとどまらず、ライフスタイルの一部として確立されている。特にリーズナブルな価格と大容量の商品が人気を集めているMEGA MGC COFFEEのような低価格カフェチェーンの成功は、大量販売やテイクアウト文化といった韓国特有のビジネスモデルと消費者行動の影響が大きい。一方日本ではカフェの需要に対して供給が追いついていない状況があるのにも関わらず、韓国のカフェ文化をそのまま真似ることのできない事情が存在した。

 

日本で韓国の低価格カフェチェーンをそのまま展開するには、賃料や人件費の違い、消費者の利用スタイルの違いなどの様々な課題を解決していかなければならない。そのため、日本における展開には慎重な戦略が求められる。しかし、日本でも近年テイクアウト需要が高まりつつあり、韓国のカフェ文化が取り入れられる余地は十分にある。今後、日本でMEGA MGC COFFEEのようなカフェがどのように展開されるのか、その動向を注視していきたい。韓国のカフェ文化が日本にどのような影響を与え、今後のカフェ市場にどのような変化をもたらすのか、非常に興味深いテーマであることは間違いない。

 

▶記者:伊東芽生

 

 

 

 

<参考文献リスト>

・江南タイムズ「驚異の出店ペース!韓国スタバ、25年で2000店舗達成、江南区テヘラン路だけで100店舗が密集する異常事態に」https://www.kangnamtimes.com/ja/report/article/488724/(参照日:2025324日)

・厚生労働省 東京労働局「東京都最低賃金は101日から時間額1,113円になります」https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/news_topics/houdou/20220901chinginka_0002_00003.htm(参照日:2025324日)

・三菱地所リアルエステートサービス「OFFICE MARKET REVIEW 2024(2024年 東京主要5区・7区の空室率・賃貸料推移総括)https://office.mecyes.co.jp/market/detail/117(参照日:2025324日)

Hatena Blog「梨大生に人気のスタディーカフェ、梨大茶房」https://www.koguma31.net/entry/2017/06/23/181302(参照日:2025324日)

MEGA MGC COFFEE公式ホームページhttps://mega-mgccoffee.com/#mega

(参照日:2025324日)

YONHAP NEWS AGENCY「コーヒーを年間512杯飲む韓国人 10年で3倍に市場拡大」https://jp.yna.co.kr/view/AJP20180218001100882(参照日:2025317日)

YONHAP NEWS AGENCY「韓国の24年最低賃金 2.5%増の1080円で確定(2023年時のレート)」https://jp.yna.co.kr/view/AJP20230804001500882#(参照日:2025324日)

JETRO「投資コスト比較 ソウル」https://www.jetro.go.jp/world/search/cost_result?countryId%5B%5D=2300(参照日:2025324日)

SamMobile Samsung Kiosk powered by Windows OS launched in South Koreahttps://www.sammobile.com/news/samsung-kiosk-powered-by-windows-os-launched-in-south-korea/

(参照日:2025325日)

Search KOREA「『ドラッグストアではない』韓国で爆発的に増加している『キオスク』とは?」https://searchkoreanews.jp/opinion_topic/id=28957

 

(参照日:2025325日)