
〜日本でのパン屋勤務と韓国現地調査〜
1. はじめに|パン文化と物価の違いに気づいたきっかけ
私は幼少期から料理をすることが好きで、休日にパンを作ったり、
これまでに日本国内で、3つの異なるパン屋でアルバイトをしてきました。
例えば、一本1000円近い高級食パンを販売する専門店、観光地にある創業30年以上の老舗ベーカリー、そしてレストラン併設型の観光向けベーカリーなどです。
それぞれのお店には異なる特徴があり、パンの種類や販売方法、客層、そして製造・接客スタイルに大きな違いがありました。
この多様な現場経験が、後に韓国でパン屋を見たときに「文化の違い」をより深く実感する土台になったのです。
高級食パン専門店、観光地にある老舗のパン屋など、さまざまな形態のお店で働いたことで、パン屋の「現場」を知ることができました。
そして、インターンシップを機に韓国に滞在し、ベーカリー・専門店・コンビニなど複数のパン売場を実際に見る機会があり、あまりの違いに驚きました。
パンという“日常の食べもの”だからこそ、国による文化や考え方、物価の差がはっきりと見えてくることを実感しました。この記事では、私の実体験をベースに、韓国と日本のパン文化の違いと、パン作りに欠かせない基本材料の価格比較についてご紹介します。

2. 日本でのパン屋バイト経験から見えた“日常食”としてのパン
日本のパン屋では、定番のメロンパン、カレーパン、あんパンといった「馴染みのある商品」が長年にわたり愛され続けています。私が勤務していた観光地の老舗パン屋でも、人気商品はレーズンやあんこを混ぜ込んだ食パンなど、“王道+ひと工夫”のスタイルでした。
また、日本ではパン屋に行く前から「買うものを決めてから行く」お客さまが多く、
購入も比較的短時間で済むことが多い印象です。
現場では、焼き時間や発酵管理が厳密に管理されており、清掃・陳列・包装すべてが丁寧で正確さを求められる場面が多々ありました。効率性よりも「正確さ」や「お客さまへの誠実さ」が大切にされていると感じていました。
3. 韓国のパン屋は“おしゃれなカフェ”だった
韓国で訪れたパン屋の印象は、一言でいえば「カフェに近い」ものでした。
例えば、有名なベーグル専門店や塩パン・ロールパンの専門店では、店内のインテリアが非常に洗練されており、パンを“買う”というより“楽しむ”“滞在する”場所という印象を受けました。
店内の様子 冷蔵品 2階のイートインスペース
多くの店舗にイートインスペースがあり、
若い世代がパンとドリンクを楽しみながら長時間過ごす様子も見られました。

営業時間も長く、ある屋台式のパン屋はなんと営業時間夜22時まで、
生地から揚げできたてを提供という驚きのスタイル。行列もできていました。
ただ、扱っていたのは揚げパン(ドーナツ)だったため、オーブンを使わずとも短時間で揚げたてを提供できる点、そしてドーナツは加発酵でもある程度仕上がるという性質から、可能な営業形態なのだと納得しました。
韓国に旅行に来る日本人ほとんどが口をそろえて行きたい、行くべきだと言っていた、
ソウルにある人気ベーグル専門店はとても印象的でした。
このお店では、事前にスマホアプリで予約をするスタイルが主流で、店頭にも予約客の列ができていました。
さらに、入り口にはセルフサービスのお茶が用意されており、寒い中待っている人への配慮が感じられました。
(下記写真左)
お茶が用意されていた 沢山のベーグルが並ぶ店内(営業時間内でも生地が製造されていた)

日本のパン屋では市販のクリームが販売されていることが多いのに対し、韓国のパン屋ではチーズクリームなど店舗ごとの手作り・加工クリームが多く、独自性が見られました。
もう一つ驚いたのは、「営業中にもパンの製造(生地を扱う)が続けられている」という点です。
日本のパン屋では、製造は早朝から始まり、午後1時ごろには仕込みが終了することが一般的でしたが、このお店では午後もスタッフがベーグルを成形・焼成しており、常に焼きたてを提供している様子でした。
このように、韓国のベーカリーは商品提供の柔軟性や、サービスの細やかさにおいて、日本とは異なる“もてなし”の文化が垣間見える場所でした。
4. パンそのもののスタイルの違い
日本のパン屋が「定番の味と安心感」を大切にしているのに対し、韓国のパン屋は「その店ならではの新しさ」や「ビジュアル重視」の傾向が強く見られました。
ベーグル専門店では、ポテトチーズ、バジル、サンドイッチなど具材たっぷりの個性派ベーグルが並び、塩パン専門店では味付けやトッピングが数十種類も展開されていました。
日本では、「今日はメロンパンを買おう」と目当てを決めて買いに行くスタイルが主流ですが、韓国では「今日はどんな新しいパンがあるか見に行こう」という楽しみ方がされているように感じました。
食パンの位置づけの違い
韓国でも一般的なベーカリーやチェーン店では、食パン(식빵)が販売されており、家庭用のパンとして一定の需要があります。しかし、日本と比べると、食パンがパン屋の「主役」として扱われているケースは少なく、私が実際に訪れた韓国のパン屋では、食パン自体が販売されていない店舗もありました。置かれていても、ラインナップのひとつとして控えめな存在であることが多いと感じました。
一方、日本ではどのパン屋にも食パンが並んでいる印象が強く、日常的に食べられる主食として広く定着しています。さらに、近年では「高級食パン専門店」が登場し、味や食感、製法にこだわった商品も数多く見られ、食パンに対する関心の高さがうかがえます。
私自身が韓国のベーカリーをいくつか訪れて感じたのは、パン屋の商品構成に日韓で明確な違いがあるということです。日本では食パンが主役となる店舗が多い一方、韓国では「塩パン専門店」など、特定のパンに特化した個性的なベーカリーが多く見られます。必ずしも食パンがベーカリーの定番商品とは限らない点に、
両国の消費傾向やパン文化の違いが表れていると考えられます。
韓国で購入した塩パン 日本でブームとなった高級食パン

5. スーパーでの基本材料価格比較
パン作りに欠かせない材料である「小麦粉」「バター」「卵」について、日本と韓国のスーパーでの価格を比較してみました。
材料 |
日本(平均) |
韓国(平均) |
小麦粉(1kg) |
約300円 |
約2,000ウォン(約220円) |
バター(200g) |
約520円 |
約4,300ウォン(約470円) |
卵(10個入り) |
約200円 |
約4,980ウォン(約550円) |
※右画像は作成時(2025年4月17日)の日本のチラシ10個 192円
※左表の価格は2025年1月時点の情報を元に、為替レート(1円=10ウォン)で換算
レポート作成中、日本の実際のスーパーのチラシを確認したところ、卵1パック(10個入り)は約190円で販売されている例も見られました。(右上写真)
報道などで示される価格高騰の傾向とはやや異なり、時期や地域によっては比較的手頃な価格で流通していることがうかがえます。また、韓国では実際に現地のスーパーを訪れた際、最も安価なもので15個入り約500円程度で販売されており、日本と比べるとやや割高に感じられました。日韓のベーカリー業界を比較すると、卵の価格に大きな差が見られます。特に韓国では、卵1ダースの価格が他のアジア諸国と比べて高く、これは主に鳥インフルエンザの影響や飼料費の高騰が原因です。韓国は輸入に頼らず、国内生産に依存しているため、生産性の低下や供給不足が価格に直結しています。
また、韓国はカフェ文化やスイーツ需要が非常に盛んな国であり、卵の需要は安定して高いにもかかわらず、供給側が追いつかないため、価格が高止まりしている状況です。このように、韓国の卵の価格は他の国々と比較して高く、日本や他のアジア諸国と比べると、かなりの差があります。
日本と韓国のベーカリーで使用される卵の価格差は、商品のコストに大きな影響を与えており、韓国ではより高品質でブランド化された卵が使われることが多く、これが価格をさらに押し上げています。
6. 働いたからこそ気づけた“文化の違い”
日本のパン屋では、「時間通り・マニュアル通り」が基本で、発酵や焼成も1分単位で厳しく管理されていました。一方、韓国では屋台でパンを仕込みながら販売するなど、より柔軟で現場判断に委ねる部分が多い印象です。
同じ“パン”を扱っていても、「正確さ」と「自由さ」、どちらを優先するかという考え方の違いがあることを、実体験として強く感じました。
7. おわりに|“パン”から見える国の価値観
パンはどの国でも身近な食べものですが、その背景には、その国ならではの価値観や文化が
しっかりと根づいています。
日本では「毎日食べられる安定の味」、韓国では「非日常の楽しみ」としての側面が強く、
それぞれのスタイルに魅力があると感じました。
今後も日韓それぞれの食文化やパン屋事情に注目しながら、小さな違いから大きな発見を
重ねていきたいと思います。
パン好きな方にはもちろん、異文化に関心がある方にも、この違いが少しでも伝われば嬉しいです。
▶記者:嶋本七海